タクシーに乗ったサンタクロース
去年のクリスマス・イヴには兄が入院することになり病院まで付き添ってゆきました。世間はこれから華やいだ季節だというのに。
病院の庭を兄と二人で散歩していて、何気なくなくなった祖父のことを話し出しました。
77年のことだからちょうど30年前。どういういきさつでその役を引き受けることになったのか判りませんが、父の実家の近くにある市民会館にサンタクロースがやってくるということで見にゆくと、10分ほど遅刻してやってきたサンタクロースはなんとうちの祖父でした。やせていた祖父には可哀想なほど赤いサンタクロースの衣装が似合いません。
トナカイに乗ってきたんですかと司会の人に聞かれて、
「トナカイじゃ間に合わないから、タクシーを飛ばしてきたんだ!」
などと子供心にもつまらない冗談を言っていたので、隠れたくなりました。この冗談は、僕が覚えている限り真面目なだけの人だった祖父が残した、たったひとつの冗談です。
兄にその話をすると、大爆笑。気落ちしたり泣いたり怒ったりしていた兄が久しぶりに笑ってくれました。僕も一緒にしばし大笑いしました。
人間はどこで何の役にたつかわからないものです。あなたの何気ない一言が、のちに誰かを助けることになるかもしれません。
29年ぶりに祖父の冗談のおかげで少しだけ気持ちが軽くなった、去年のクリスマスの思い出でした。



